AUSメディア・ウォッチ「メディアの独立性」 – 日豪プレス

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オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞を始め、テレビ、ラジオ、オンライン・メディア、映画、書籍などで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第38回:メディアの独立性

オーストラリアの公共放送ABCのトップが9月24日(月)、突然解任された。

2年半前にマネジング・ディレクターに就任したばかりだったミシェル・ガスリー氏。その解任をきっかけに、ABCの内部に隠れていた問題が浮き彫りになった。

公共放送のジレンマ

突然の解任に「打ちのめされた」とショックを隠さなかったガスリー氏は月曜日、1件書類を残してオフィスを去った。その書類から見えてきたことは、ABCのジャスティン・ミルン前会長と連邦政府のつながりだった。

「ミルン氏とのやり取りの中で私は、ABCの、政府からの独立性を守ってきた」と役員会に訴えたガスリー氏。政府から疎まれていたABCの記者、エマ・アルべリーチ氏とアンドリュー・プロービン氏を解雇するようミルン氏から指示されていたことを明かした。

アルベリーチ氏は今年2月、当時の政権が打ち出した法人税減税に批判的な分析記事を書き、ターンブル前首相らの批判を浴びた。その後、記事はオンラインから削除され、大幅修正後に再掲載されたという経緯がある。

ABCのミルン前会長はターンブル前首相と親しく、過去にはビジネス・パートナーだったこともある人物。そのミルン氏が、政府の意向をくんで特定の記者を解雇するよう指示していたのなら、ABCはメディアとしての独立性を失ったことになる。

ABCは国内で最も信頼性が高いメディアであるだけでなく、国民的キャラクターのバナナズ・イン・パジャマズを生み出すなど、オーストラリアを象徴するメディアでもある
ABCは国内で最も信頼性が高いメディアであるだけでなく、国民的キャラクターのバナナズ・イン・パジャマズを生み出すなど、オーストラリアを象徴するメディアでもある

難しいのはABCが公共放送である点だ。

「ABCはもちろん政府から独立していなければいけませんが、政府との関係は重要です。それは政府が資金を出しているからです」(ABC、2018年9月24日)

こう述べたミルン氏も3日後の木曜日には辞任を発表。ABCにとって怒涛(どとう)の1週間となった。

民主主義とメディア

日本では公共放送であるNHKが安倍政権批判を避け、政府の広報機関のようになっているという指摘がここ数年聞かれるようになった。NHKに限らず、安倍政権に「忖度(そんたく)」する民間メディアもまた、自主的に報道規制をするようになったと言われている。

「国境なき記者団」が4月に発表した「2018年報道の自由度ランキング」で、日本は180カ国中67位だった。G7諸国の中では最下位、マラウイやエルサルバドルを下回る、先進国としては極めて低いレベルだ。

またアメリカではトランプ大統領が、ニューヨーク・タイムズ紙やCNNなど、政権批判も恐れないメディアを激しく攻撃していることは世界中が知るところとなった。

なぜこのような政府によるメディアへの干渉が問題になるのか。

それは、必要とあれば権威にも立ち向かうことができるメディアがないところでは、民主主義が成り立たないからだ。

だから独裁的または権威主義的な国家では往々にしてメディアが弾圧され、言論統制が行われる。中国がフェイスブックなどの海外のSNSを禁止し、北朝鮮が国内の報道を統制する理由もここにある。10月には、サウジアラビア政府に批判的だった記者が同国総領事館内で死亡する事件もあった。

報道の自由度が世界19位のオーストラリアはこのような国々と比べものにはならない。それでもABCの件が大きく取りざたされたのは、それがメディアの健全性に関わる重要な問題だったからだ。

ザ・カンバーセーション(同年9月27日)のミシェル・グラッタン氏は、公共放送ABCのトップに必要なのは「干渉を押しのける強い手」だと書いている。「彼らは政治家に対し、『あなた方のABCではない』と言えなければなりません。ABCは独立性と誠実性を守り、国民に尽くすためにあるのです」

揺れる豪メディア界

公共放送でなければ独立性の問題がないかと言えばそうではない。

デジタル化の流れの中で資金繰りに苦しみ、その存在さえ危ぶまれる民間の既存メディアもまた、ビジネスの干渉を受けている。

7月、シドニー・モーニング・ヘラルド紙などを所有するフェアファックス・メディアと、『ザ・ブロック』などの娯楽番組で知られるナイン・エンターテイメントが合併を発表した。合併後はフェアファックスの名はなくなり、事実上のナインによる買収とされている。

ここで心配されたのも、フェアファックスが所有する新聞の独立性だ。

米ニューヨーク・タイムズ紙(同年7月25日)までが、「オーストラリアのメディア合併は『破滅的なディール』となる恐れがある」と題する記事を掲載。「軽いライフスタイル的」なナインが、「長い間、政治・ビジネス・文化世論を形作ってきた」フェアファックスの新聞に及ぼす影響を心配する声があることを指摘した。

メディアが政治的または商業的圧力に屈することなく、独立性を持ってその役割を果たすことができる社会。当たり前のようだが、歴史の中でそれは何度も覆されてきたし、今でもそうではない国はたくさんある。

これからまだまだ動きそうなオーストラリアのメディア界。身近な話題として注視していきたい。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton

米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton



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