日本サッカーの新人契約問題。 ルールを知らないがゆえの不平等 – footballista

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柳田佑介 インタビュー 後編


日欧を知るサッカー代理人、柳田佑介氏に「プロ契約」「外国人枠」「契約年数」「年俸」「移籍補償金」という5つのキーワードから、グローバルな欧州の移籍市場とローカルな日本の移籍市場との大きな隔たりを掘り下げてもらった。




インタビュー・文 浅野賀一


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キーワード3~5「契約年数」「年俸」「移籍補償金」

3つの要素は相互に密接に関連しており、他の要素とのバランスによって決まる


── それでは次のテーマとして契約年数、年俸、移籍補償金については、ヨーロッパと日本でどのような違いがあるでしょうか?

「ヨーロッパでも契約年数、年俸そして移籍補償金はそれぞれ単独でも非常によく語られるトピックですが、実はこれら3つの要素は相互に密接に関連しており、他の要素とのバランスによって決定づけられる性質を持っています。すなわち、ヨーロッパでは長い歴史の中で数え切れないほどの事例が蓄積されており、また選手が若いうちから代理人がついて交渉を行うため、例えば今の年齢で3年契約して、これくらいの年俸をもらうなら移籍補償金は100万ユーロくらいだとか、もう少し年俸が安いならそれが50万ユーロになるといった感覚が選手、クラブ、代理人などの間でおおよその共通認識として共有されているのです。従って例えば年俸が極端に安いのに5年契約で移籍補償金は1000万ユーロといったようないびつな契約は成立しづらくなっています」


── 翻って、日本では?

「日本ではそうした共通理解が形成されているとは言いがたく、報道されている事例の蓄積や情報源も少ないため、選手や保護者にとっては提示された契約が全体としてどうなのかを判断する物差しがない状態であると言えると思います。また最初のプロ契約がC契約に限られるという規定も3要素のバランスを崩す要因となっています。日本の場合、選手が満18歳になれば5年契約を締結できるのですが、年俸はC契約で低い水準で抑えられ、移籍補償金は設定しない(理論上はクラブがいくらでも請求できる)といった3要素がアンバランスな契約条件を提示されるケースが多々あります。それでも選手はまず“プロ選手になる”というチャンスを手に入れるためにそれを受け入れ、クラブに対して要望を出したり交渉をしたりすることはなく契約書に署名をしているのが現状です」


── そこから代理人が入って交渉するのは、現実的ではないんですか?

「実は今、そうしたケースが増えつつあります。代理人が入ったところでC契約の規定があるので年俸を上限以上に交渉することはできないのですが、その分、契約年数や移籍補償金(レンタル移籍の場合を含む)等の項目についての話し合いを行うことで、少しでも3要素のバランスを取りつつ、選手のプロ選手としての夢やキャリアの目標を達成できるような契約にできる限り近づけるための努力を行うことは可能です。代理人が入らないとどうしても3つの要素がバラバラに定められ、結果的にクラブ側により拘束力がある有利な契約となってしまいます」


── 日本でこの3要素が連動していないのは、契約に対する意識の差かもしれませんね。

「契約は双方の利害を調整するものであり、どちらかが相手を一方的に縛るものではありません。サッカー選手は何歳であろうと個人事業主として自立した契約当事者であり、プロ契約を結んだ瞬間からクラブとは対等な存在です。クラブが選手に価値を認めず年俸を安く抑えるケースがあるのは仕方ないのですが、その場合は選手に対して契約年数を調整したり移籍補償金を安く設定したりする等のメリットを認めることがフェアな契約だと思います。ヨーロッパのクラブには、何歳の選手とであっても対等な立場で契約を結ぶ文化があります」


── 日本人選手も早い段階から代理人や仲介人についてもらうのが解決策かもしれませんね。

「実際問題、最初の契約の時点では選手には契約に関する視点も情報もなく、何について話せばいいのかがわからない状態だと思います。法治社会における契約の性質とあり方、クラブと選手とのパワーバランス(選手が行きたい/クラブがほしい)、サッカー界やそのクラブの経済的状況および将来的な展望等を踏まえてクラブと話し合い、選手自身に何が必要で、逆に何を受け入れるべきなのか(何を我慢するのか)といったことに関する意見を伝え、説明をしてくれる代理人と契約することは非常に有意義だと思いますし、選手だけでなくクラブにとっても有益であると考えます」


── 移籍補償金に関わる話として一つ疑問があって、レンタル選手に買い取りオプションをつけることはヨーロッパでは一般的だと思いますが、日本ではあまり見ない気がするのですが……。

「私の経験上、レンタル先クラブが将来的に選手を完全移籍で獲得する意図を持っていたとしても、日本では設定しないことがほとんどだと思います。日本には良くも悪くも相手を信頼して交渉を進める文化があり、事前に暗黙の了解があれば契約書上の文字になっていなくとも、レンタル終了後にあらためて交渉しても話がまとまると期待することが可能です。一方でヨーロッパでは相手をある意味信頼せず、契約書に書いてあることがすべてという考えです。交渉ごとは状況によって変わるものなので、ある選手をレンタルで獲得し、フィットした場合は100万ユーロで獲得したいと思っているなら、必ず契約の付帯条項にそのように入れておきます」

フランス代表ムバッペは昨年、当時18歳で推定200億円以上の買い取りオプション付きのレンタル移籍でパリSGに加入した


── 選手がその移籍補償金に見合う価値があると自信があるならそうすべきですよね。

「ヨーロッパのクラブでは、レンタルで獲得する時点で『この選手が自分のクラブで活躍すれば300万ユーロの移籍補償金を稼ぐことのできる選手になる、だから100万ユーロの買い取りオプションをつけておく』といった発想でレンタル移籍の交渉を行います。日本の場合はフィットするかどうかはやってみないとわからないので、活躍したらあらためて交渉させてほしいという話になりがちですね」


── そもそも移籍補償金って基本的には定めておくものではないんでしょうか?

「そうですね。ヨーロッパでは基本的に移籍補償金を常に定め、契約書に明記します。これがないと移籍を認める基準が曖昧になり、クラブの恣意的な運用を許したり、選手を獲りたいクラブが手を上げにくくなったりするからです。また、例えば移籍補償金が100万ユーロと設定されればそれは選手の価値になります。それを払ってまで選手をほしいというクラブが現れるまでは、選手は自分にその価値がないので、もっと活躍しなければという発想になります。

 しかし日本では代理人の側から働きかけないと設定されないケースがほとんどです。その理由は、1点目は所属クラブの側が移籍の話が持ち上がってから話し合って金額を決めれば良いと基本的に考えていること、2点目は選手サイドが移籍補償金を定めたいと希望する=移籍をするつもりでいると捉えられてしまい、選手を売って収入に変えるという価値観の薄い日本のクラブではネガティブに捉えられてしまいがちであることです。

 総じて言うと、ヨーロッパでは紙に書いてある数字に基づいてドライに判断し選手を売り買いするのに対して、日本では基本的に契約期間中は移籍はせずにそのクラブにいるという前提の下、移籍を必要とするような状況が生まれた場合は双方の協議によって話を進めるという、人間関係とコミュニケーションを土台にした移籍市場が形成されていると言えるかと思います」


── そこがギャップを生み出す最大の要因ですよね。日本人選手がこれだけ海外に移籍している状況ではJリーグ側が変わらざるを得ないのが現実なんでしょうね。それでは最後に、柳田さん自身の目標についてうかがいたいです。

「サッカーは世界中でプレーされているグローバルスポーツであり巨大産業の一つですが、同時に各国ごとの文化や国民性、商習慣などのローカルな要素が色濃く現れる非常に興味深い競技です。日本はすでに話した通り世界のサッカー界の中でも独特の規範や制度を育んできていますが、一方でサッカーのグローバライゼーションと商業化の波に飲み込まれ、その中で否応なく世界各国と対峙しなければならない状況にあります。

 私としては、世界中のサッカーに関する人材、情報、技術等に関する情報収集と人脈作りを進め、日本のサッカー界の中でそれを必要としている人(指導者、選手等)や組織(協会、リーグ、クラブ等)にご紹介することで、日本サッカーのさらなる国際化と競争力の向上、そしてその発展に微力でも貢献していきたいと考えています。そのために現在は日本とドイツにあるネットワークを将来的にはさらに拡充し、精進・成長していきたいと思っています」


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Photos: Getty Images


Gaichi Asano

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。



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