弁護士の社会貢献「手弁当が美徳」で良いの? クラウドファンディングの可能性探る – 弁護士ドットコム

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「一般民事で生計を立てながら、空いた時間に社会的なことをする。こうしたモデルだけで良いのかという悩みを持つ弁護士は多いと思います」



社会貢献への関心が高い弁護士らでつくる「JFPIL(Japan Forum on Public Interest Lawyers)」が6月30日に東京都内で開いた発足記念イベントの冒頭、メンバーの金昌浩弁護士は会場にこう呼びかけた。

弁護士の職業的使命は、「基本的人権の擁護と社会的正義の実現」(弁護士法1条)とされ、裁判に限らず、広く社会課題の解決に向けた活動がおこなわれている。

一方で、そうした活動からの収入は乏しく、大部分を弁護士の「心意気」や「手弁当」に頼っているのが現実だ。

こうしたモデルは、弁護士自身の生活もある中でいつまで持つのだろうか。イベントでは、公益活動を「持続可能」なものにする手法として、クラウドファンディング(CF)の可能性が議論された。

●裁判費用をCFで募る 亀石弁護士「社会全体の問題として考えてほしい」

ゲストの亀石倫子弁護士は今年3月、CAMPFIREのサービスを使い、日本で初めてCFで裁判費用を募った。

彫り師の男性が、「医師免許がないのにタトゥー(刺青)の施術をした」として、医師法違反に問われた裁判だ。2017年9月、一審の大阪地裁で罰金15万円の有罪判決が出ている。

控訴審では、海外の事例や大学教授らの意見書などを提出し、無罪獲得を目指す。しかし、謝礼や翻訳料など、罰金15万円の比ではない出費が見込まれる。

それでも負けられないのは、この裁判が「被告人だけの問題ではない」と思うからだ。

「彫り師には長い歴史がある。ある日、医師免許が必要となり、職業を奪われ、犯罪者になるということを許したら、いずれ別の形で自分に降りかかってくる」

被告人一人ではなく、社会全体の問題として考えてほしいーー。そんな思いもあって、依頼者と相談のうえ、CFを選んだという。

ちなみに、集まったお金の一部は、手数料としてプラットフォームに入る。報酬を弁護士以外と分配することを禁止する「弁護士職務基本規程」(12条)に抵触する可能性があるため、プロジェクト自体は依頼者が立ち上げた。

●SNSを観察し、社会に響くメッセージを研究した

亀石弁護士のプロジェクトには300万円を超える支援が集まった。しかし、始める前は不安が大きかったという。

「失敗したらどうしようって。あとが続かなくなるし、裁判の印象が悪くなる恐れもありました。絶対に失敗できないというプレッシャーがすごくつらかった」

タトゥーに対する世間の目は厳しい。一審では有罪判決も出ている。加えて、弁護団内部からは、前例のない手法に同業者がどう反応するか、リスクを恐れる声もあがった。

メディア露出も多い亀石弁護士なら、成功は当然のようにも思えるかもしれない。しかし、社会がCFを支持してくれるか、確信は持てなかったという。SNSを観察し、どういうメッセージなら社会に響くか、日夜研究を重ねた。

「タトゥーは芸術なんだ、良いものなんだ、という風にはしませんでした。タトゥーの写真は、(キャンペーンページに)1枚も載せていません。何が社会にとって問題なのかを書きました」

「弁護士って正しく伝えようとするあまり、文章が長くなったり、難しくなったりしがち。それって一番読まれないと思う。広く多くの人に読んでもらうための文章を心がけました」

それだけに、「タトゥーは嫌いだけど応援します」といったコメントや同業者からも支援があったことが嬉しかったという。

●何でもかんでもCFで良いのか?

亀石弁護士の事例を受けて、イベントでは大きく2つの問題が議論された。

1つ目は、CFが万能なのかという問題だ。モデレーター役のJFPILメンバー鬼澤秀昌弁護士は、どんな事例ならCFが使えるか、公益性の「基準」を問いかけた。

国が相手なら分かりやすい。しかし、個人同士や対企業ではどうだろう。また、裁判以外の公益活動はどうか。たとえば、鬼澤弁護士は、教育系NPOと連携して、学校のいじめ問題や教員の長時間労働の是正に取り組んでいる。

この点について、もうひとりのゲストで、日本初のCFサイト「Readyfor」の米良はるか社長は、プラットフォーマーの立場から見解を述べた。

「タトゥー裁判のように、社会の仕組みや構造がおかしいと指摘するものは問題ない。ただ、特定の人の人生に関わるものは、現時点ではすぐに何でも良いとはならないと思います」

海外には、すでに訴訟費用のためのCFサイトがある。たとえば、亀石弁護士は英国拠点で、米国にも進出した「CrowdJustice」というサイトを事前に研究している。

「米良さんが言うように、個人対個人のケースはほとんどなかった。私的な利益に近づくほど、共感もお金も集まらない」(亀石弁護士)

CFの歴史が浅い日本では、無暗にCFを使うと無用な反発を招くリスクもある。それは、次に利用する人のハードルを高めてしまうかもしれない。

「『叩かれても、炎上してもやれるのは、あの人だからだよね』になると続かない。(CFでの資金調達に失敗すれば)問題自体の本質的議論が難しくなることもある。世の中を巻き込む新しいモデルになれると思うので、そこを見据えてサポートしていきたい」(米良社長)

●弁護士の「報酬」もCFで集めたらどうなる?

論点の2つ目は、弁護士の報酬についてだ。

亀石弁護士のプロジェクトでは、300万円を超える支援が集まったが、この中に弁護団7人の弁護士費用は含まれていない。報酬を含めれば、別の議論が起こりかねないと考えたからだ。

もしも、報酬を募ったらどうなるか。鬼澤弁護士はNPOの活動経験から推測する。

「間接費などに使うと叩かれてしまう可能性がある。やっている側からすれば、報酬がなければ生きていけないって話ですけど…」

思い出されるのは、日本ユニセフ協会や協会大使のアグネス・チャンさんが受けてきたバッシング。募金の約20%弱を人件費や広報費などに充てていたところ、不当に「ピンハネ」しているというデマがネットで出回った。

弁護士に限らず、公益的な活動に対する人件費をどうするか、社会の理解も深めていく必要がありそうだ。

●公益活動にフルタイムでかかわる弁護士、日本でも可能?

アメリカなどには、市民や弁護士同士の寄付で活動する公益弁護士団体が複数あり、中にはフルタイムで公益活動に取り組む弁護士もいるという。日本にもそんな弁護士が複数いれば、さまざまな活動がより円滑に進む可能性がある。

JFPILでは、今後もトークイベントなどを通し、弁護士の公益活動を支える基盤づくりを模索する。人権問題や教育など、社会問題全般についての企画も検討しているという。(編集部・園田昌也)

(弁護士ドットコムニュース)



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