関税のマイナス効果はどの程度? 経済モデルに限界も – ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

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――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」



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 通商政策を巡り、どれほど過激な言葉が交わされても、関税による米経済への影響は驚くほど小さいと多くのエコノミストが分析していることは、1つの安心材料だ。問題なのは、まさにこうしたエコノミストらが、自身が用いる経済モデルは通商やサプライチェーン(供給網)の複雑さを正確にとらえておらず、現実には、はるかに大きな悪影響が及ぶと個人的に考えていることだ。

 トランプ米政権は6日、340億ドル(約3兆7600億円)相当の中国製品に対して25%の関税を発動。中国もすぐさま、同規模の報復関税を発動した。米政権は5月末にも、カナダやメキシコ、欧州連合(EU)の鉄鋼・アルミニウムに対して関税を課しており、今後もさらに関税が追加される可能性がある。

 エコノミストが予想を立てるために利用する経済モデルは、20兆ドルの規模を持つ米経済にこれまで導入された関税が与える影響は、最小限にとどまることを示唆している。ムーディズ・アナリティクスのモデルによると、関税の影響は7-9月期(第3四半期)の米国内総生産(GDP)を0.03%、来年には0.1%下押しする程度にとどまる見通しだ。

 だがムーディーズ・アナリティックスの首席エコノミスト、マーク・ザンディ氏は「われわれは 米経済へのマイナスの影響を著しく過小評価しているだろう」とし、関税の影響を楽観していない。

 例えば、 ハーレーダビッドソン 。同社は先月、EUからの報復関税を回避するため、欧州向けに輸出していたオートバイの生産を欧州に移転する計画を発表した。典型的な経済モデルは通常、関税を踏まえ、ハーレーダビッドソンの欧州販売が落ち込むと想定する。だが、EU 向けに輸出していた4万台近くの生産を移転することは予測しない。生産移転なら、GDPの減少幅はさらに広がる。

 エコノミストが貿易の分析に利用するモデルは、国内生産者や政府が得る利益よりも、関税によって消費者が受ける損失の方をより大きく予測する経済学の入門書に比べると、はるかに複雑だ。一段と高度なエコノミストの分析モデルは、関税によるインフレへの影響や米連邦準備制度理事会(FRB)による金融政策対応など、副次的な効果も勘案する。だがハーレーダビッドソンの生産移転計画などは含まれておらず、他にも大きな要因を考慮していない可能性がある。

 例えば、株価は経済モデルの多くに含まれておらず、含まれていても、投資家心理の冷え込みが株価に与える影響については考慮していない。そのことは、通商政策による経済への影響を把握する上で、こうした経済モデルが重要な要素を見逃していることを示唆している。米経済は株式相場急落による影響を受けやすく、消費者の買い控えや企業の投資・雇用抑制につながる恐れがある。

 株価をモデルから除外している ゴールドマン・サックス のエコノミスト、ヤン・ハチウス氏は、関税(もしくは他の要素もほぼすべて)に対し株価がどのように反応するかを予測することは困難なことが問題だと指摘する。経済モデル上で株価の下落予想を引き上げ、関税に対するマイナスの経済反応を作り出すことはできるが、「それをすれば、ある意味、答えを推測しているとになる」という。

 関税が企業の事業計画に与える影響や従業員の雇用維持への不安など、その他の心理的影響も同じように予測が難しい。そう指摘するのは、ドイツ銀行のエコノミスト、ピーター・フーパー氏だ。

 また経済モデルは、製造過程で輸出入が何度も繰り返される現代のサプライチェーン(供給網)において、関税がいかに重なり合って増幅されかねないかを考慮していない。そのため、最大25%の関税が検討されている自動車は、関連部品が何度も国境を越えるため、とりわけ深刻な影響を受けかねない。JPモルガン・チェースのエコノミストによると、米国内で販売される自動車のち、国内で調達される部品の割合は半分にも満たない。

 米経済は好調で、エコノミストの経済モデルに含まれていない要因による影響の多くは相殺されるだろう。だが危険なのは、米国が関税をさらにエスカレートさせ、他国も報復に走れば、その影響は増幅される恐れがあるということだ。

 ムーディーズのザンディ氏のモデルでは、自動車関税やさらに4000億ドル相当の中国製品に対する10%の追加関税など、トランプ政権が検討を表明している措置をすべて実行し、中国をはじめ他国も同規模の報復措置を講じた場合、来年のGDPの下押し幅は0.1%から0.5%に拡大すると見込まれている。米国が中国製品に25%の関税を課し、中国も同規模の対抗措置を講じるような極端なケースでは、落ち込み幅はさらに1.3%に広がるという。来年の成長率が2.4%と予想されている中で、それは大きな足かせとなる。

 これに、経済モデルが現在盛り込んでいない要素をすべて加えれば、いかなる想定シナリオも一層深刻なものとなるだろう。

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